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血管内治療について|脳神経外科

はじめに

 血管内治療とは、カテーテルから特殊な器材を通して、血管の内腔から病変に到達し、透視下に病気を治す治療法です。通常大腿動脈(足の付け根の動脈)経由で脳血管撮影検査と同様の手技を用いて行いますが、まれに上肢から、あるいは頸部直接穿刺で行うこともあります。

 脳神経外科領域では、近年さまざまな器材が使用可能となったことで急速な発展を遂げています。従来の手術では治療困難であった病変へも容易に到達できるほか、直視下で行う開頭手術と比べ患者さんへの負担が少なく、高齢者や全身合併症を持った方にも施行できる点で優れており、治療後の安静と入院の期間が短いなどの利点もあります。

 脳梗塞急性期の再開通治療として,慢性期の再発予防治療として、動脈瘤や血管奇形など出血性病変の塞栓治療として,また脳腫瘍術前術後の補助治療として、今や脳神経外科領域において欠かすことのできない治療選択肢となり、当院においては毎年60~80件の治療が行われております。

血管内治療法の種類

脳梗塞急性期再開通療法

 脳の血管が詰まると、脳細胞に十分な酸素や栄養が送れなくなり、その部分の脳は数時間以内に障害されて「脳梗塞」になります。いったん梗塞に陥った脳細胞は元通りには回復せず、脳梗塞になる部位に応じて、麻痺や言葉の障害、意識障害など種々の神経症状が出現します。脳動脈の主幹部(本幹の太い部分)が閉塞した場合には、より高度な神経症状が出現し重大な後遺症を残したり、時には生命の危険を及ぼすことになります。脳梗塞発症から4.5時間以内の場合は、血の塊を溶かす薬(アルテプラーゼ:rt-PA)を静脈から点滴することによって、脳の血液の流れを再開させるrt-PA静注療法を行います。しかし発症から4.5時間を越えていたり、薬の禁忌事項に該当するなど患者さんの状態によってはrt-PAを使用できない場合もあります。また、大きな血栓が太い主幹部を閉塞させた場合、rt-PA静注療法を行っても再開通しない場合も少なくありません。そのような場合、症状が出てから数時間以内であれば、詰まっている脳の血管までカテーテルを挿入し、閉塞血管を再開通させる再開通療法を行います。

 特殊なデバイス(広径吸引カテーテル、血栓回収用ステント)を用いて血栓を体外に回収する経皮的脳血栓回収術、血栓溶解薬を注入して溶かす局所線溶療法、バルーンを用いる経皮的脳血管形成術などがあり、これらの治療法を選択または組み合わせて用いることで早く詰まりを取り除き、脳梗塞の完成を阻止し後遺症を軽減する効果が期待できます。

 局所麻酔下に大腿動脈(下肢の付け根の動脈)からバルーン付きガイディングカテーテルを挿入し目的の閉塞血管に進めます。造影剤を注入して閉塞部位を確認の後、ガイディングカテーテルの内腔を通してマイクロカテーテルを閉塞部位に進めます。広径吸引カテーテル(ペナンブラ、カタリスト、ソフィアなど)は柔らかく追従性の高い吸引カテーテルで、マイクロカテーテルに追従させて閉塞部位まで進め血栓を吸引除去することで再開通を図ります。血栓回収用ステント(トレボ、ソリティア、トロン、エンボトラップなど)は閉塞部位で土管のように広がって血栓を捕捉する網目状の金属で、捕捉した血栓ごと体外にワイヤーで引き出して再開通を図ります。いずれのデバイスでもガイディングカテーテルのバルーンを膨らませて血流を遮断し、陰圧をかけながら血栓を取り除く操作を成功するまで何度か繰り返し行います。閉塞遠位部局所から血栓を溶解する薬剤を注入して血栓を薬理的に溶かす方法が局所線溶療法です。また、バルーンカテーテルやガイドイヤーを用いて血栓を粉砕したり、物理的に狭窄血管を拡張して再開通を図る方法が経皮的脳血管形成術です。動脈硬化が高度の場合、カテーテルが閉塞部位まで到達できなかったり、血栓の性状によっては再開通できずに終了せざるを得ない場合もあります。再開通療法では、60〜90%の患者様で再開通が得られ、早期に完全な再開通を得られるほど神経症状の改善が認められます。高齢な方、術前の神経学的重症度が高い方、内頸動脈などより近位部で閉塞している方ほど予後は不良となる傾向があります。これらの治療は、発症後出来得る限り早い時期に行うのが良く、遅ければ治療が無効であるばかりでなく却って悪化させる危険すらあります。

頸動脈ステント留置術

 頚部の頚動脈狭窄症に対しては、全身麻酔下に前頚部皮膚切開で頚動脈を露出しアテローム血栓を除去する頚動脈血栓内膜剥離術(CEA) が行われてきました。しかし高齢者や冠動脈疾患など合併症を有する場合の手術危険度は高く、高位病変には到達困難であるなどの問題がありました。局所麻酔で可能な頚動脈ステントは、高齢者や合併症患者、高位病変や両側性病変など、CEAの危険が高い場合にも行い得る点で非常に優れています。ガイディングカテーテルを総頚動脈に誘導し、まず頭蓋内への塞栓を防御するためのバルーンを用いて頚動脈の流れを遮断します。血管形成術用のバルーンカテーテルで前拡張を行ったのち、自己拡張型ステントを留置して、更に大きめのバルーンカテーテルで後拡張を行って十分な拡張を得ます。血管内の血栓を吸引除去したのち再還流させて終了します。狭窄率50%以上の症候性狭窄か、狭窄率80%以上の無症候性狭窄をもつ患者さんが適応となります。

脳動脈瘤コイル塞栓術

 くも膜下出血の原因となる脳動脈瘤(破裂、未破裂)の治療法には、従来から行われている開頭クリッピング術と、血管内手術であるコイル塞栓術の二つの方法があります。コイル塞栓術は開頭術で到達困難な部位の動脈瘤や、開頭術自体の侵襲が不適切と思われる高齢者、重症者、全身合併症患者においても施行できる点で有用な治療法です。動脈瘤の形、特に動脈瘤頸部の大きさにより、コイル塞栓術が不適切な場合もあります。
 通常患者さんの負担を減じ、体動による危険を防止するため全身麻酔で行います。血栓形成により脳梗塞を起こすことを防止するため、抗凝固剤(血液が固まるのを抑える薬)を静脈内投与して行います。大腿動脈(下肢の付け根の動脈)より挿入したガイディングカテーテルから造影剤を注入して脳血管撮影を行い、動脈瘤の大きさを計測するとともに最も動脈瘤が見やすい透視の角度を選びます。次いでガイディングカテーテルの内腔からマイクロカテーテル(直径1mm前後の特殊な手術用カテーテル)を挿入し、透視で確認しながら慎重に動脈瘤内へ誘導します。塞栓物質としては、離脱式のプラチナコイルが用いられます。プラチナコイルには様々な大きさ、長さ、固さなどの種類があり、また素材がプラチナ単独のタイプの他、治療後の器質化を促すための生体反応性物質を含むタイプや、挿入後膨張して充填度を上げるタイプなど多くの種類のものが使用可能となっており、動脈瘤の大きさや形状に最も相応しいものを選択して用います。最初は大きめのコイルを挿入して外殻を形成し、徐々に小さなコイルを選択して順次内部に充填してゆきます。一本挿入するごとに撮影し、問題ないことを確認して離脱するという操作を繰り返し瘤内に留置します。
 動脈瘤の頸部が広い場合、バルーンカテーテルを併用してコイルの逸脱を防止しながら充填する方法をとります。また、動脈瘤の形状や部位によっては、予めステントと呼ばれる特殊な合金で編んだ筒状の網で動脈瘤頚部を塞いでからコイルを挿入する方法(ステント併用コイル塞栓術)を用いる場合もあります。解離性動脈瘤や巨大動脈瘤などの場合には、動脈瘤内の塞栓のみでは治癒が得られず、事前に母血管の閉塞テストで耐性があることを確認した上で、母血管自体をコイルで閉塞する方法をとる場合もあります。
 血管撮影上、動脈瘤の陰影が消失するまで挿入し完全塞栓を目指しますが、動脈瘤の状況によっては頚部残存や部分塞栓で終了せざるを得ない場合もあります。また計測上の動脈瘤容積に対する、留置したコイル体積の比率である「体積塞栓率」を指標に塞栓を行いますが、概ね25%以上で良好な充填度と判断されます。塞栓終了後はカテーテルを抜去して止血し、術後は集中治療室で管理します。必要に応じて抗血栓療法を行います。

動静脈奇形,硬膜動静脈瘻に対する経動脈的・経静脈的塞栓術

 脳動静脈奇形の治療は、手術的摘出、ガンマナイフそして血管内治療の三者を組み合わせた集学的治療が一般的です。マイクロカテーテルからリドカインを注入して誘発テストを行い、塞栓されても機能障害が出現しないことが確認された栄養血管に対して、液体塞栓物質であるOnyxまたはシアノアクリレート系接着剤(NBCA)を用いた塞栓が行われます。塞栓物質の濃度や注入速度を調節することで、有効な塞栓が可能となります。血管内治療は、摘出手術との組み合わせにおいて、視野の裏側にある捉えにくい栄養血管を予め塞栓する、血液短絡量を減じナイダスを縮小させて手術難度を軽減するなどの効果が期待されます。またガンマナイフとの組み合わせにおいては、ガンマナイフで対処可能な大きさ(10ml以下)に縮小させる、合併する動脈瘤など危険部位を処置することで、治癒待機中の再出血を防止する、ガンマナイフの効果が得にくい瘻孔部位を閉塞させるなどの目的で行われます。 

硬膜動静脈瘻はまれな疾患ですが、コイルを用いた経静脈的塞栓術(静脈洞パッキング)やNBCAを用いた経動脈的塞栓術が行われ、非侵襲的で根治的な効果が期待できます。

腫瘍血管塞栓術

 髄膜腫などの摘出術前に、腫瘍栄養血管に対する塞栓術を行うことで、開頭時および摘出術中の出血量を減じ、手術の操作性と安全性を高める効果が期待されます。通常外頚動脈系硬膜枝が標的となり、マイクロカテーテルからリドカイン注入による誘発テストで脳神経が温存されていることを確認し、粒子状塞栓物質(PVA:polyvinyl alcohol)を用いて塞栓します。正常血管へ塞栓物質を逆流させないよう注意が必要で、当該血管からの腫瘍陰影の消失をもって終了とします。

選択的動注化学療法

 原発性脳腫瘍の約1/3を占める悪性神経膠腫の治療は、手術的摘出に次ぐ放射線化学療法が標準的治療です。現在、悪性神経膠腫に対する化学療法の第一選択はテモゾロマイド内服治療ですが、テモゾロマイド無効例や副作用により内服できない患者さんもおられます。そのような患者さんに対し当院では選択的動注化学療法を行っております。血管内治療手技を用いて選択的にカテーテルを進めて動脈内投与することで、高い腫瘍内薬剤濃度が得られる一方、投与総量を減じて全身副作用を減じる効果が期待できると考えられます。動物を用いた基礎的実験により、動脈内投与流量を増すことにより脳血管内での層流が抑制され、良好な腫瘍内薬剤分布と薬剤濃度上昇が得られることが確認されており、この理論に基づき、当院では血管内治療手技を用いた選択的動注化学療法を行っております。マイクロカテーテルを頭蓋内へ誘導し、良好な造影剤分布が得られる注入速度(通常20ml/z分程度)を確認の上、ニトロソウレア系抗癌剤を同速度で注入します(High-flow injection法)。耳鼻科領域の悪性腫瘍や頭蓋底転移などに対しても選択的動注化学療法を行い、悪性腫瘍をもつ患者さんの生存率向上とQOL改善に貢献しております。

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