はじめに
脳神経外科の治療の一つに定位脳手術という分野がございます。これは、1908年Horsleyらが猿や猫の頭蓋や脳の個体差が少ないことに着目し、頭部を固定すれば、脳深部の神経核や神経路の位置が3次元座標で表すことができることを発見したことに始まります。以来中枢神経の生理機能の研究や臨床応用の研究が進められました。1947年に初めてSpiegelらがヒト用の定位脳手術機械を作製しておりますが、猿や猫と違いヒトでは頭蓋の形大きさの個体差が大きいことが問題でありました。
1959年になりまして、SchaltenbrandとBaileyが脳地図ともいえるアトラスを発表し、前交連と後交連の距離で補正すれば正確に深部脳神経核が同定されることを見いだし、定位脳手術の研究が飛躍的に進歩しました。
現在、臨床的には不随意運動(パーキンソン症候群、アテトーゼ様運動、舞踏病、ヘミバリスムス、ミオクローヌス、脳性小児麻痺など)中枢性疼痛(視床痛など)などの疾患で、神経核破壊術、電気刺激のための刺激電極植え込み術などが定位脳手術で行われております。またCTによる定位的血腫除去術や腫瘍生検なども定位脳手術を応用した方法であります。
この定位脳手術をガンマ線で行えないかというアイディアが1951年Lars Leksellにより提唱されました。彼は深部腫瘍に対する手術に変わる方法としてradiosurgery(RS)の概念を提唱しました。当初はproton beamが使用されておりましたが、1968年 cobalt 60(179個)からのガンマ線を一点に集束し、非侵襲的に境界鮮明な照射域をつくることで定位的に脳深部の病変を治療する脳定位的放射線治療装置(ガンマナイフgamma knife prototype)を作製しました。その後1974年には線源は201個と改良され、コンピューターの高速化、CTの導入、さらにMRIが加わり、より正確且つ迅速な治療計画の作成が可能になり、複雑な立体的照射域が得られるようになりました。
本邦には1990年5月に導入され、世界では257台が稼働中で、保有台数は北米(121台)、日本(51)、欧州(34)、中国(17)の順であります。
2001年 新病院移転に伴い、東北では2台目のガンマナイフとして当院に導入され、治療が開始されました。
ガンマナイフの原理
半球状に配置された201個の線源(Co60半減期5.26年)から出た個々のガンマ線は微弱で、これらのbeamが400mm離れた中心に集束し高線量となる球形の照射野を作ります(導入時3.5 Gy / min)。線源と頭部(病変)が固定されるのがガンマナイフの特徴で、得られる機械的精度はミリメートル以下であります。等線量曲線(isodose curve)は急峻に減衰しますので、病変周辺の脳実質や血管への照射線量は極めて少なく放射線の影響が最小限になります。原則として1回照射で、4種類のcollimator(4、8、14、18mm)を組み合わせて、50%以上の等線量曲線で病変を立体的にとり囲むようにcomputer上で計画します(図1)。ちなみに14mm collimatorの50%等線量曲線で作られる立体は、直径20mm球体に相当します。


対象疾患
対症となる疾患は頭蓋内疾患が主で以下のようなものです。
| 脳腫瘍 | 聴神経腫瘍、髄膜腫、転移性脳腫瘍、下垂体腫瘍、 小脳血管芽腫、頭蓋咽頭腫、松果体腫瘍、胚芽腫など。 |
|---|---|
| 脳血管障害 | 脳動静脈奇形、海綿状血管腫など。 |
| 機能的脳疾患 | 三叉神経痛、癲癇、Parkinson病の振戦など |
適応
- 手術では到達困難な脳深部の病変、
- 多発性のために手術治療が困難な症例、
- 機能的に重要部位にあり手術操作などで重大な機能障害が起きると予想される危険な部位の病変、
- 合併症や高齢などで全身麻酔が困難な症例、
- 手術でとりきれなかった病変、
- 再発例 などに対してガンマナイフは有効な治療の対象となります
また、病巣の大きさも適応を決める上で重要な要素で、一般には3cm以下の病変が適応とされております。
治療効果
疾患により有効率は異なります。悪性腫瘍の代表的腫瘍は転移性脳腫瘍ですが90%前後が有効です。多発でも再発でも治療を行います。頭部を治療しても、原発腫瘍で亡くなることもありますが、転移性脳腫瘍に関しては、転移性脳腫瘍で亡くなるということを負担の少ない治療によって阻止し、脳症状を軽減させ、その結果有意義な時間がより多くもてれば有効といえます。
良性腫瘍は一般にガンマナイフ治療により完全に消失することはありません。ガンマナイフ治療の主目的は腫瘍の発育をおさえることです。すなわち良性腫瘍は縮小ないしは不変が有効と考えられています。有効率は、髄膜腫約90%、聴神経鞘腫80~90%です。
脳動静脈奇形は大きさにより有効率は異なります。一般に病変の体積が10ml以下の中等度以下の大きさのものは80-86%が有効です。
代表的な疾患の呈示
(1)聴神経腫瘍
文献的に累積縮小率は3年で72%、4年78%、5年84%。画像変化では88%に中心部が淡くなり、32%に顕著な低吸収域を認めるようになります(中央値4.5カ月)。
聴神経腫瘍の場合治療後聴力障害が進行することが問題点としてあります。治療後聴力低下が出現するといわれております。従って、有効聴力が残っている症例は一般に対象外でありますが、最近は治療の線量を加減することにより聴力低下の頻度は低下しています。一過性顔面神経麻痺は7~8%合併するといわれております。その他障害としては三叉神経障害、耳鳴り、めまい、ふらつき感、顔面痙攣、頭痛、頭重感、水頭症などが出現することがあります。
3cm以下の聴神経腫瘍に対して、ガンマナイフの腫瘍制御率は高く、治療の重要な選択枝となります。
(2)髄膜腫
著明な縮小は示さず、少し縮む程度。治療効果は増大5%(3.9~9%)、縮小55%(52%~74%)、不変40%(17~48%)で腫瘍制御率は高い。主に全摘出困難な頭蓋底部の腫瘍に対して行われています。治療後浮腫は16%とやや多い傾向があります。
(3)転移性脳腫瘍
83~94%が局所制御と報告されています。多発、再発、全脳照射後再発でもガンマナイフの対象になります。原発腫瘍で死亡するかもしれませんが、転移性脳腫瘍で亡くなるということを負担の少ない治療によって阻止し、その結果有意義な時間がより多くもてれば有効といえます。5~6個の腫瘍は1回の操作で可能な事が多く、症例により全脳照射と組み合わせることもあります。平均生存期間は手術+全脳照射:24~43週、全脳照射:15~27週、ガンマナイフ:40~56週 。多発転移性脳腫瘍(平均3個)のガンマナイフ後平均生存6~9カ月、 10個以上の転移性脳腫瘍では5カ月。
(4)脳動静脈奇形
照射により血管内皮細胞増殖、硝子化、内腔閉塞を惹起せしめ異常血管(nidus)の完全消失を最終目的として治療します。治療後1年36~44%、2年で69~75%、3年後80~86%が完全に消失します。問題点としては、完全消失するまでは出血の危険性があることで、出血率は年2~3%といわれております。治療3~4年後nidusが縮小しなければ、再度ガンマナイフ治療を行うこともあります。合併症としてはnidus周辺の浮腫は22%。痙攣、3~5年を経て変性した部分が嚢胞化することなどがあります。
副作用
3%以下でありますが、治療平均7カ月後に、周辺組織が浮腫や壊死を起こすことがあります。ステロイド治療が有効です。全脱毛はありませんが、皮膚近くの病変では約1カ月で局所脱毛があることがあります。通常3~6カ月後にまたはえてきます。この他極稀に治療後腫瘍出血、のう胞形成、水頭症や悪性変化の報告がございます。
治療の実際
- まず、病変を正確に測定するために、金属フレームを頭部に固定します。この際は痛みがありますので、局所麻酔が必要です。局所麻酔後、頭部に4点のピン(スクリュー)でフレームを固定装着します。頭の毛を剃る必要はありません。
- 金属フレームを固定後MRIや脳血管撮影を行い、照射を行う病変の位置と大きさを測定計算します。
- 治療計画をたてます。
- ヘルメットに頭を固定したフレームをとめます。その後、自動的にベッドがガンマナイフ装置内に移動し 照射されます。ガンマナイフ治療自体は全く無痛です。照射は5分~2時間以内で終り、通常入院は3日ですみます。
治療予約、外来予約、費用について
1.治療日
原則として週3回、月、水、金に治療します。入院は治療日の前日です。
2.脳神経外科外来
脳神経外科外来は月~金曜日まで(午前中)毎日開いております。先生方からの御紹介や適応に関する問い合わせは、手紙でも電話,E-mailでもかまいません。月~金(9時~17時)、いつでも結構ですので、脳神経外科外来ガンマナイフ担当(井上 明、ほか)に御連絡ください。照会時CT、MRIなどの資料を郵送して頂ければ、大変助かります。検討の上治療日、その他詳しく御本人、御家族もしくは主治医にご連絡いたします。
毎週 木曜日は脳神経外科外来で、ガンマナイフ治療に関する詳しい説明を家族および御本人に行います。この日に予約なしに患者さんが受診なされても構いません。
●連絡先
TEL023-685-2626
メールでのお問い合わせはこちらから
3. 健康保険、費用
ガンマナイフ治療は健康保険適応です。健保適応に関しては付帯事項はなく脳腫瘍全般、脳血管奇形いずれも適応です。ガンマナイフによる定位放射線治療は5万点、健保本人の場合(本人負担3割)、基本的には15万円前後と算出されます。これに入院費用が加わります。
























